横浜地方裁判所 昭和63年(行ウ)23号 判決 1993年10月27日
横浜市緑区美しが丘一丁目一三番地二
原告
有限会社マル中
右代表者代表取締役
布施松男
右訴訟代理人弁護士
森卓爾
同
根岸義道
同
中村宏
同
畑山穰
横浜市緑区長津田四丁目一番一二号
被告
緑税務署長 坪井正男
右指定代理人
加藤美枝子
同
関澤照代
同
中澤彰
同
江本修二
同
蓑田徳昭
同
野末英男
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が原告に対して昭和六二年五月三〇日付けでした、原告の昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件処分」という。)を取り消す。
第二事案の概要
一 事案の要旨
本件は、被告から税務調査を受けた原告が、被告係官に対して法人税法一二六条一項所定の帳簿書類の提示を拒否したとして、同法一二七条一項一号に定める青色申告承認の取消事由に該当することを理由に、本件処分を受けたことについて、原告において右書類の提示拒否をしておらず、仮にしたとしても同号所定の要件には該当しないから、本件処分は不当であるとして、その取消を請求した事案である。
二 争いのない事実等
1 原告は、肩書所在地に本店を有し、同地において鮮魚小売業を、また横浜市緑区美しが丘一丁目一三番地二所在の吉村ビル二階において焼肉店「牛まつ」をそれぞれ営み、その法人税について、昭和四六年四月一日から昭和四七年三月三一日までの事業年度(以下原告の事業年度については「昭和四六年分」等という。)から法人税の申告についての青色申告の承認を受けていた。
2 被告は原告に対し、昭和六二年五月三〇日付けで、原告は法人税法一二七条一項一号に該当する行為をなしたとの理由で、原告の昭和五七年分以後の法人税の青色申告の承認を取り消すとの処分をした。
3 原告が、本件処分について、被告に対してなした異議申立及びこれに対する決定、国税不服審判所長に対してなした審査請求及びこれに対する裁決の各経緯は別紙のとおりである。
三 争点
1 原告は、被告係官が昭和六一年一一月四日から昭和六二年五月六日にかけて、原告の昭和五六年分から昭和六〇年分までの法人税の申告内容について調査を行った際、提示を求められた各調査事業年度の帳簿書類を提示したか否か。
2 仮に原告が被告係官に対して、右帳簿書類を提示しなかった場合、これが法人税法一二六条一項所定の「帳簿書類の備付け、記録又は保存が行われなかった」ことと評価することができるか。
四 争点に対する双方の主張
1 本件処分の適法性に関する被告の主張
(一) 法人税法は、帳簿書類の備付け、記録及び保存が同法一二六条一項に規定する大蔵省令で定めるところに従って行われていないことを青色申告承認申請の却下事由(同法一二三条一号)とし、他方において、青色申告承認の取消事由(同法一二七条一項一号)としている。また青色申告法人に対する更正処分は原則として、その法人の所定の帳簿書類の調査を通じてのみなし得ることとされ(同法一三〇条一項)、青色申告法人に対するいわゆる推計課税は許されないこととされている(同法一三一条)。
右のような法人税法の規定に照らせば、青色申告制度は、納税者の帳簿書類について税務署長が同法一五三条に基づく調査をなすことができ、その調査により帳簿書類の備付け、記録及び保存が正しく行われていることを確認することができることを前提としていることは明らかであり、青色申告者が正当な理由なくして右帳簿書類を提示しなかった場合も、同法一二七条一項一号が定める青色申告承認の取消事由に該当するものと解すべきである。
(二) しかるに、原告は、被告係官が行った昭和六一年一一月四日から昭和六二年五月六日まで合計一五回にわたる調査において、再三にわたり調査事業年度である昭和五六年分から昭和六〇年分までの帳簿書類の提示を要請されたのに、昭和六〇年分に係る焼肉売上の伝票等一部の帳簿書類を提示したのみであり、法人税法一二六条一項、同法施行規則五四条、同規則別表二〇所定の帳簿書類の提示をしなかった。
2 被告の主張に対する原告の反論
(一) 被告係官は一〇回にわたり、原告方に臨場して税務調査を行ったが、原告は、そのうち六回については法定の帳簿書類をいつでも見ることができる状態にしておき、調査に訪れた被告係官の要求に応じて提示していた。
(二) また、原告が、帳簿書類を提示しなかった四回については、いずれも被告係官が事前の通知又は約束もなく突然来訪したり、原告代表者が予め都合が悪いと伝えていた日や事前に打ち合わせたのとは異なる日に来訪したため、即日調査に応じることができず、帳簿書類の提示ができなかったもので、原告が帳簿書類を提示しなかったことには「正当な理由」がある。
(三) したがって、このような事実があるにもかかわらずなされた本件処分は違法である。
第三争点に対する判断
一 当事者間に争いのない事実、証人板井要二の証言及びこれにより成立の認められる乙一号証、原告代表者本人尋問の結果によれば、本件に関する税務調査の経緯として次の事実が認められる。
1 被告係官榊原真一は、昭和六一年一一月四日午後一時三〇分ころ、被告係官鈴木喜久治を同行して原告経営の鮮魚店に、被告係官板井要二は、被告係官佐藤武志を同行して原告経営の焼肉店にそれぞれ臨場した(この点は争いがない)。
2 榊原及び鈴木両係官は鮮魚店に臨場し、原告の取締役であり、原告代表者の弟である中村文男と同人の妻に面接し、鮮魚店における売上及び仕入れ関係の概要、売上金の管理方法について質問したが、中村は、売上金の管理は同人が行っていること、売上金はその場でざるに入れておくという、いわゆる売りだめ方式で管理していること、ざるの中には釣銭として予め一万五〇〇〇円を入れておくこと、掛け売りは特定の社員寮一軒以外には行っていないこと、仕入れについても同人が担当し、週一、二回程度行っていることなどを答えた(この点には争いがない)。
3 板井及び佐藤両係官は焼肉店に臨場して、原告代表者の布施松男及びその妻で原告の取締役である布施里子に面接し(この点は争いがない)、法人税の調査のために訪問した旨を告げたところ、布施松男は「税務署には用がない。調査は民商(民主商工会)を交えてやる。」などと述べて、調査を拒否する態度を示した上、説明を求められた営業状況についても、概略を述べただけで詳細な説明を拒み、提示を求められた帳簿書類についてもこれに応じる様子を見せなかった(証人板井)。
布施松男は板井係官から、レジの中に現金がいくらあるか確認したいと言われたので、レジを開け(この点は争いがない)、紙幣の枚数を教えたが(証人板井)、調査対象が昭和五六年分から昭和六〇年分までと聞き、そうであれば、調査当日における現金確認は不要であろうと考え、補助貨幣の確認については拒否した(原告代表者)。板井係官らは、現金商売の場合には、調査当日における現金がいくらあるかを確認することは不可欠であるのに、布施松男にはその調査に応ずる意思がないものと考え、同人に対して、当日の調査は打ち切るので、調査に応ずる意思があるならば連絡するようにと述べ、その場から辞去した(証人板井)。
4 板井及び榊原両係官は、その後原告から連絡がないため、同年一一月七日午後、焼肉店に臨場して布施松男に面接し、連絡がないので訪問したが調査を進めねばならないので調査日を決めたい旨申し入れたが、同人は「税務署にはいい思い出がない。調査は民商を交えてやる。」などと述べて、調査に応じる態度を見せなかったため、板井係官らは、調査に応じないときは、被告において独自に調査を行わざるを得ず、その結果場合によっては更正処分をせざるを得ないし、青色申告の承認を取り消さざるを得ない旨を述べた上、帳簿書類の保管方法について聞いたところ、同人は「すべて民商に預けてある。」と答えた。そこで、板井係官らは、次回の調査日を原告の定休日である同月一三日としたいので、都合が悪ければ連絡するようにと告げ、その場から辞去した。なお、当日は布施松男が午前中に病院に行く予定であるとのことであったので、午後から調査を行うということになっていた(証人板井)。
5 板井及び榊原両係官は、同年一一月一三日午後、焼肉店に臨場したが、店のシャッターが降されていた(証人板井)ので、横浜市美しが丘四丁目二二番一九号所在の布施の自宅を訪れたが、ここにも同人がいなかったため、妻の里子に面接した(この点は争いがない)。里子は板井係官らに対し、帳簿書類の作成管理等は夫松男がすべて行っているので、自分では説明できないから、松男に連絡するように伝えておくと述べたため、板井係官らは松男への連絡を依頼して、帰った(証人板井)。
6 板井係官は、同年一一月一九日、鮮魚店及び焼肉店の近くの路上で、車に乗った布施松男に出会った(この点は争いがない)ところ、同人は板井係官に対し、連絡先の電話番号が不明であったため、連絡しなかったなどと弁明し(証人板井)、同月二六日なら調査に応じると申し出たため、板井係官は、いったん緑税務署に戻り、改めて布施松男に電話したところ、同人は一一月二六日午後二時から四時までに調査に応じると申し出た(この点は争いがない)。その際、板井係官は、当日は午前中から調査したいと申し出たが、布施松男は午後二時以降でないと民商の都合が悪いと述べて、午前中の調査を断った上、帳簿書類を提出するかどうかについても、調査理由を聞いてから考えると答えた(証人板井)。
7 板井係官は佐藤係官を同行して、右約束の調査日である同年一一月二六日午後に、焼肉店に臨場したところ、布施松男、布施里子、中村文男の外民主商工会(民商)事務局員及び民商の会員らが待機していた(この点は争いがない)。板井係官らは、民商事務局員及び民商の会員らの退席を要請したが、布施松男はこれに応じなかったため、やむなくそのまま調査を進めることにした(証人板井)。
板井係官らは布施松男に対し、原告が記帳している帳簿書類の提出を求めたところ、同人は「調査理由を明らかにせよ。」と述べ(この点は争いがない)、板井係官らから、申告書が正確かを確認するために、帳簿書類を見たいと説明されても、これに応じる様子を見せなかった(証人板井)ため、板井係官らは、当日の調査を打ち切り、署内に戻った(この点は争いがない)。その後、布施松男は板井係官に電話して、同年一二月三日午後二時から調査を受けたいと申し出たため、板井係官はこれを了解して、同日に調査を行うこととした(この点は争いがない)。
8 ところが、板井及び榊原両係官が、約束の期日である同年十二月三日午後二時ころ、焼肉店に臨場したところ、布施松男、布施里子、中村文男の外民商事務局員が待機していた(この点は争いがない)。
そこで、板井係官らは、民商事務局員の退席を要請した(この点は争いがない)が、布施松男が応じないため、そのまま調査を進めることとし、昭和五六年分から昭和六〇年分までの帳簿書類の提示を求めたが、同人は調査理由を明らかにするようにとの発言を繰り返して、これに応じないため、板井係官らは再三にわたり調査に協力するよう求め、こうした状態が続けば、独自の調査を行い、更正処分をなし、青色申告の承認も取り消さざるを得ないと告げたところ、布施松男は調査対象年度を昭和六〇年分に限って欲しいと述べながら、紙袋の中に入っていた昭和六〇年分の焼肉店売上伝票の一部と仕入れの領収書の一部を提示した(証人板井、なお、布施松男が昭和六〇年分の売上伝票と仕入れ領収書を取り出して榊原係官の前においたことは争いがない。)。
板井係官らは、布施松男及び中村文男に対し、調査の対象年度は、昭和五六年分から昭和六〇年分の五事業年度であり、本件調査は昭和六〇年分から順次始めることを改めて伝えて右伝票の書き写し作業をした(この点は争いがない)。
なお、板井係官らは、伝票とともに元帳等の提示があれば、伝票に記載された数字とこれらの記載内容とを突き合わせれば、帳簿書類が適正に作成されているかどうかが判明するので、通常の調査においては伝票の記載内容を書き写すまでのことはしなかったが、右のとおり伝票と仕入れの領収書の一部しか提示されなかったため、これからの調査の見通しがつかなかったことに加え、後日他の資料により確認できるかもしれないと考えて、とりあえず伝票の記載内容を書き写すこととした(証人板井)。また、榊原係官は、布施松男に対して、現金出納帳の提示を求め、調査当日の現金がいくらあるかを質問したが、同人は現金出納帳は記帳していないし、現金がいくらあるかも不明であると答えた(この点は争いがない)。
9 次に、板井及び榊原両係官は、昭和六二年一月一二日午後に、鮮魚店に臨場し(この点は争いがない)、帳簿書類の提示を要求し、引き続き調査に協力するように要請したところ、その場にいた布施松男及び中村文男は、前回の調査後、いわゆる反面調査が行われたことを指摘して、これを中止するよう求め、反面調査が行われるなら帳簿書類を提示する必要はないと抗議したので、やむなく調査を打ち切ってその場を辞去し、その後、次回の調査期日を同年一月二八日午後二時と打ち合わせた(証人板井)。
10 板井及び榊原両係官は、布施松男と約束した同年一月二八日午後に、焼肉店に臨場したところ、同人の外布施里子、中村文男に加え、民商事務局員及び民商会員らが待機していた(この点は争いがない)ため、原告の役員である布施松男、布施里子及び中村文男以外の者の退席を求めたが、民商事務局員らは退席しなかった(証人板井)。また、板井係官らから帳簿書類の提示を求められた布施松男は、前回同様に昭和六〇年分の焼肉店の伝票を提示したので、板井係官らは、その伝票の記載内容を書き写す作業を行って、午後四時過ぎにその日の作業を終了した(この点は争いがない)。
11 板井及び榊原両係官は、同年二月四日午後二時ころ、焼肉店に臨場し、提示された昭和六〇年分の焼肉売上伝票の記載内容の書き写し作業を行った(この点は争いがない)。なお、同日も板井係官らが調査に訪れた際、民商会員らが待機しており、板井係官らの退席要請にも応じなかったばかりか、右売上伝票は、調査に赴いた板井係官らに対して布施松男及び中村文男が口々に反面調査についての非難攻撃を繰り返し、調査協力が得られないため、同係官らが、調査を打ち切って帰ろうとしたところ、初めて提示されたので、約一時間これを書き写して午後四時ころ辞去した(証人板井)。
12 ところで、板井及び榊原両係官は、同年二月一〇日午後二時ころ、焼肉店に臨場し、布施松男に対して調査を行いたいと告げたが、同人は反面調査に対する抗議を繰り返すだけで、全く調査に応じる様子を見せなかったため、板井係官らは調査に入ることなく三〇分程度でその場から立ち去った(証人板井)。
13 板井及び榊原両係官は、同年二月二〇日昼過ぎころ、焼肉店に臨場したが、布施松男に会えなかったため、午後四時ころ改めて訪れ、同人と面接し、帳簿書類を提示して調査に協力するように依頼したが、同人は三月下旬まで都合がつかないというのみで、調査に応じる様子がないため、板井係官らはもっと早期にして欲しいこと、また調査を受けなければ、今までに行った反面調査の結果に基づいて更正処分を行い、青色申告承認の取消処分を行わざるを得ないと告げて、三〇分程度でその場から辞去した(証人板井)。
14 板井係官は、同年三月四日、焼肉店に臨場して布施松男に面接し、帳簿書類を提示して調査に応じるように要請したが、同人は仕入れについての概況を述べただけで帳簿書類の提示には応じなかった(証人板井)。
15 板井及び榊原両係官は、昭和六二年三月一八日午後二時ころ、焼肉店に臨場したところ、布施松男、布施里子の外民商事務局員二名及び民商会員一名らが待機していたので、布施夫婦以外の者を退席させるように要請したが、布施松男は「私が頼んで来てもらった。」などと返事した(この点は争いがない)。
このように、布施松男は民商事務局員等の退席要請に応じなかったので、やむなく板井係官らは同人に対し、帳簿書類の提示を求めたが、なおも同人の態度は変わらなかったため、独自の調査に基づいて更正処分及び青色申告承認の取消処分を行うこともある旨告げて当日の調査を打ち切った(証人板井)。
16 板井及び榊原両係官は、同年三月二四日午後二時過ぎに、焼肉店に臨場して布施松男に面接し(この点は争いがない)、同人に対して調査に応じるように要請し、帳簿書類の提示を求めたが、同人は「今は忙しいから帰れ。」などと述べて、これに応じる様子を見せなかったため、板井係官らは調査をあきらめその場から辞去した(証人板井)。
17 布施松男は榊原係官に対し、同年三月下旬、四月一日であれば調査を受ける意思がある旨電話連絡したが、同日被告係官は臨場することなく調査は行われなかった(この点は争いがない。なお、同日調査することについて、被告側が了承したことを認めるに足る証拠は存在しない。)。
また、布施松男は被告に対し、同年四月三日付けの内容証明付郵便で、同月一日に調査を受けたいと申し出ていたのに、調査が行われなかったが、同月二二日午後一時三〇分から調査を受ける意思があるので、この件について同月一三日までに連絡して欲しいという内容の書面を送付した(この点は争いがない)。これに対して榊原係官から、同月一三日、民商関係者が立ち会うなら調査を行わないと電話連絡してきたので、布施松男は、用意して待っている旨答えたが、同月二二日には被告係官は臨場せず、調査は行われなかった(甲五三号証の一、原告代表者)。
18 板井及び榊原両係官は、同年五月六日午後一時三〇分ころ、焼肉店に臨場したところ、布施松男、布施里子、中村文男の外民商事務局員が待機していた(この点は争いがない)ので、民商事務局員を退席させるように要請したが聞き入れられなかったため、そのまま焼肉店及び鮮魚店の当日の現金がいくらあるかの確認及び前日までの売上金の管理状況を尋ねたところ、布施松男は焼肉店の前日分のレジペーパーと売上伝票を持って来たが、板井係官らがその内容を確認して、メモを取ることを拒否したため、同係官らは調査を打ち切ることとし、その場を辞去した(証人板井)。
以上のとおり認定でき、これに反する甲五一、五二号証、五五号証の各記載部分及び原告代表者の本人尋問の結果はいずれも信用することができず、採用しない。
二 本件処分の適否について
1 青色申告制度は、正確な帳簿書類に基づいた納税申告を奨励するために、税務署長の承認を条件に認められるものであり、納税義務者の帳簿書類の備付け、記録及び保存が正しくなされていることが前提であるから、これが正しく行われているとともに、その点を税務当局が的確に確認できることが、制度の前提となっているものである。したがって、青色申告の承認を受けている納税義務者が正当な理由もないのに、税務当局の帳簿書類の調査を拒否するなどして、税務当局が帳簿書類の不備又は不正の存否を確認することができないようにした場合には、帳簿書類の備付け、記録及び保存を欠くと評価されるべきであり、法人税法一二七条一項一号が定める青色申告承認の取消事由に該当すると解するのが相当である。これを批判する原告の主張は前提を異にし、採用できない。
2 本件においては、前記一で認定したとおり、原告は、被告係官から、昭和六一年一一月四日から昭和六二年五月六日まで半年間にわたって合計一五回もの調査を受けたにもかかわらず、昭和六〇年分の焼肉店の伝票及び領収書の一部等を提示したのみで、所定の帳簿書類の提示を拒否しているのであり、しかも、前記認定の事実関係に徴すれば、その拒否行為がいずれも正当な理由に基づくものでないことは明らかである。その結果、被告は原告において帳簿書類の備付け、記録及びその保存が大蔵省令の定めるところによって正しくされていることを確認できなかったのであるから、本件において、原告には法人税法一二七条一項一号の青色申告承認の取消事由があるとしてなされた本件処分は正当である。
よって、本件処分は適法であり、原告の請求は理由がない。
(裁判長裁判官 清水悠爾 裁判官 秋武憲一 裁判官 東亜由美)
<省略>